京都に着いたのは土曜日の夕方。先斗町のバー「meme」で開催される科学バーは夜の7時からなので、少しのあいだ京都の街とお店めぐり。歩き始めてすぐ目に飛び込んできたのが金網と木の奇妙なオブジェ。新洞小学校のグラウンドのフェンスが傾きかけた日差しに映える。紅葉シーズンど真ん中ゆえ、人、人、人なんだろうなと思いきや、裏道というほどでもない大通りから一本中に入った道はすれ違う人も少ない。静かな気持ちで目的地の熊野神社まで歩く。東大路通りの徳成橋からの眺め。疎水の水面に映る紅葉が素敵。
行きの新幹線の中で、まずあそこに行こう! とひらめいたのはカレー専門店「ビィヤント」。熊野神社の斜め向かい辺り、聖護院八つ橋本舗の近くです。15年ほど前にすでに老舗の風格があり、カウンターの中では、たぶん学生運動に熱心だったのでは? と思われる細身でしゃきっとした感じの女性が切り盛りしていたのでした。
ビィヤントのカレーは、さらさらタイプ。ツヤツヤしているのは、蜂蜜かなにか入っているのでしょうか。懐かしいカツカレーを食べたいところをぐっと我慢してチキンカレー。やっぱりおいしい。しかも、カウンターの中には、少し歳をとられたかなとお見受けする店主の女性が軽快なフットワークで狭いスペースを動き回っている。
息子さんかもしれない若い男性と最小限の言葉を交わしながら作業を進めていく店主。お勘定をしたときの表情もいい。店を出ると、ちょうど若い男性の奥さんと子どもが立ち寄ったところで、その子どもを抱き上げた男性がまた「ありがとうございました」と言ってくれる。当たり前のことなのに、また来ようと思わせてくれる。
科学バーが始まるまで、立ち寄りたい場所あるので、河原町界隈へは徒歩で戻ることに。かつて伝説のサルサバー「ピエドラ」があった路地も探索。
ピエドラの入っていた古いビルの1階にあったジャズ喫茶「YAMATOYA」は営業中。建物は新しくなっていて怪しさゼロ。路面も舗装されてしまっていて味気ないですね。路地に入る手前の近くには、アンティーク家具で知られる「ブルーパロット」も営業中。何てことのない中華も残っているのにピエドラだけがない。
岡崎のほうへすたすた歩き、ふたたび疎水と夕日を眺めながら細見美術館へ。
若冲や琳派のコレクションで知られる同館は今年15周年だそうです。
おそらく90年代から続く若冲ブームと小さいながらもおしゃれな建物、空間ゆえに存在感のある美術館になったのではないか。設計は大江匡さん。中庭というか、内側の空間が吹き抜けになっていて、オープンテラスもあるイタリアンがある。開館当時は、心底おしゃれ! と思ったものです(今でも十分いい感じ)。
開催中の展示は「琳派の伝統とモダン —神坂雪佳と江戸琳派—」。
神坂雪佳のことも、江戸琳派のことも知らなかったので、へえ〜、と思いながら鑑賞。神坂雪佳は、植物や花鳥風月の図案作成に秀でた人だったようで、船上で見つけた「波」と「水」のモチーフをその場でささっと描いたという図案集が素敵でした。ミュージアムショップで一押しだったのが、神坂雪佳の「金魚玉図」(画像は細見美術館ホームページより)。
先斗町の科学バーまで、まだ少し時間があるので、最近雑誌で知った「京極スタンド」へ。予想はしていましたが、河原町界隈は人、人、人。
台湾の食堂みたいだな、と思ってぜひ見てみたかった注文伝票。
出てくるものは可もなく不可もなし。左隣の男性は定食を食べ、右隣の若い男性は文庫を読みながら晩酌セット。カウンター向かいのカップルは、男性が盛り上がるも女性が「なぜ私がここに?」という姿勢を崩さず表情固め。活気があるので、きっといい店なのだと思います。次があったので早々に店をあとにして、いよいよ先斗町へ。
ふつうに歩いている人はまず見落とす控えめな看板が目印の「meme」。
路地奥にある小料理屋へ向かう男性のあとに続き奥へ。
店内はトルコ一色。先斗町ですが、オーナーのシェリーがベリーダンサーで、トルコが好きで、みたいな? よくわからないのですが、こじんまりとして落ち着ける店内。
本日のゲストは、科学バー・海編でおなじみの後藤忠徳さん。「京都の海、トルコの海」と題して、本当に京都にかつてあった海、「古京都湾」の話を披露。海水準が何メートルになると、どこまで京都は浸水するかマップに一同ビックリ。
KIWIの科学バー同様、脱線あり、質問ありで、後藤さんが用意していたスライドは半分ほどで終了。トルコの海まではたどり着けず・・・。でも、「地震のことを専門家に聞きたかったんです!」という地元の方、「こんど神戸で科学バーをひらきたいんです」という若手エンジニアのFさん、気鋭のサイエンスイラストレーター、ウチダヒロコさん(有川 浩 著『県庁おもてなし課』など)、世界一周旅行から帰国したばかりの方もいらっしゃって満席。たのしいひと時となりました。次回は、1月21日に開催だそうですよ。
今回は特に何をしたわけでもないのですが、後藤さんと打ち上げ。memeから北上して木屋町通りをちょっと入ったところにある立ち飲み「わたなべ横丁」へ。
京都ではまだ少ない立ち飲み。魚介が安くてうまい。「ペンネ」なんていうメニューもあって、味付けは辛いトマトソースなので、ペンネ・アラビアータなんですが、それを「ペンネ」と客は呼ぶ。「エレベーター」は、厚揚げの上に大根おろしを載せたもの。店主のキャラクター、きびきび動く店員、味と値段、実はスポーツバーという多面性。住んでいたら間違いなく通ってしまいそう。後藤さんには「おやすみなさい」をして、もう酔っぱらっていたんでしょうね、無性にラーメンが食べたくなってしまい、開いていた一軒へ。京都でラーメンと言えば背脂醤油系なので、それに出会えた午前2時前の幸運に感謝。
ホテルへ向かう途中に六本木にあるテキーラの店「AGAVE」を発見したものの、なんと今夜のお宿は門限が午前2時。門限って・・・。10軒以上電話してやっと取れたホテルなのでもういいや、と諦めたツケがこんなときに。なので入れず。ホテルへ。
翌朝、なんてことのない町家が続く裏道からお散歩をスタート。テキーラを飲まなかったので、1時間は早く出発できたと自分に言い聞かせながら。静かな日曜日の朝。
日蓮宗の本尊「頂妙寺」の境内に入って空を見上げると、紅葉とひこうき雲。この時間は、何本ものひこうき雲が交差してたのでした。
さらに歩いて、こちらは庭園家の重盛三玲旧宅。ここは予約すれば中に入れます。
吉田神社の参道。朱色の鳥居の前にはいつも自転車が。どこに用事のある人がここにとめているんだろうと見る度に思う。
二日目最初の目的地、北白川の進々堂。
店内はほぼ満席。まだ小学生にもなっていないであろう女の子がメニューを持って来てくれました。小さなピンクのエプロンが可愛らしい。
パンで食べるカレーと迷いましたが、昨日もカレーを食べたので、今朝はサラダセットを注文。コーヒーには最初からミルクが入っているイノダコーヒー方式(進々堂のほうが古いからこの表現は間違いか)。ここは味もいいのですが、店内に入る光と、黒田辰秋作のテーブルとイスを味わいに来る場所。
本来なら、1時間でも、2時間でもゆっくりしたいところ。ここは本当は冬がいいんです。本を持ち込み、中庭にしんしんと降る雪を時おり眺めながらコーヒーを飲む。暖をとるのはストーブで、店内は薄暗いけれど寂しくはない。また来ようと思いながら、お客さんも並び始めたので店をあとに疎水沿いを散歩。秋晴れ。
疎水のすぐ近くにある、清水豆腐店はすでに開店していて、おばあちゃんが忙しそうに働いている。
恥ずかしながら、このお店で豆腐を買ったときに、ふと外に並べてある油揚げを見て「油揚げって、豆腐を揚げたものだったのか!」と気がついたのでした。ここのおばあちゃんが作ったおいしい豆腐は、ご近所に愛されるとともに、地元の多くの料亭にも入っているのだとか。清水豆腐から疎水に出て曲がってすぐのところにあるのが、東京日本橋にも同じ名前の店がある「中華そば ますたに」。昨夜も食べたような気がする背脂醤油系ラーメンの元祖。朝10時なので、まだ行列はなし。並ばなくてもいい、というだけでお店に吸い込まれるように入店。
日本橋にある「京都銀閣寺ますたに」は、ここの味を再現したお店。日本橋のお店に行くようになり、本家の味はどうだったかしらん、と気になっていたこともあり。ラーメン、麺固め、ネギ多めで。
味の完成度は、北白川の本家も日本橋もあまり変わらない感じ。むしろ日本橋のほうが洗練されているかも。本家は店内、店員すべての肩の力が抜けていて、ラ〜メンってこんな感じだよね〜と思い出させてくれる脱力系。周りの猛者は、日曜日の朝だというのに、大盛りを頼むは、無料だからといってごはんを付けるは、やりたい放題(笑)。
さすがにお腹がいっぱいになったので、銀閣寺裏の大文字山に登ることに。ご存知、哲学の道。10時を過ぎて、私と同じ観光客の皆さんが押し寄せて哲学するにはほど遠い雰囲気です。
目指すは、大文字山の「大」の字の火床。北白川交差点からの眺め。標高約472メートル。
「大」の字の標高は300メートルほど。その道のりは、大人がふつうに歩いて小一時間。さあ、出発。歩き始めてすぐのところには「草喰なかひがし」。まだ開いていません。
銀閣寺への参道から左へ一本入った道を歩き、突き当たりを左折すると「行者の森」の石碑。ここからが大文字山登山(大げさ!)の始まりです。
日曜日ですから、家族連れもちらほら。このとおり美しい景色にも出会えます。
石畳の道もあり・・・
たまに急な斜面もあるので、革靴やヒールのある靴での登山はやめたほうが無難。ふつうのスポーツシューズでOK。
小一時間登れば、京都市内を一望できる山頂付近に到着。直前の階段がけっこうハードなので、みなさん休憩。ここでお弁当を食べたりもして。
見える景色がこちら。
手前の紅葉は大文字山の木々。中央やや下の緑の塊は吉田山。その左少し上が京都御所。左のほうには、見通しのいい日は大阪梅田の高層ビルが見える京都屈指のビュースポット。隣にいたおじさんの話では、淡路島まで見える日もあるとか。下山して、銀閣寺へ。
人が多くて大変と思いつつ、自分もその大勢を構成する一員なので文句も言えず。ショートカットして国宝銀閣、銀沙灘を足早に眺めて退場。世界遺産について思いを馳せながら。
そろそろ帰りの新幹線を気にしながら、どこに行けるかなと考えてみる。少し南下したところにある法然院の墓地が思い浮かんだので、てくてく歩く。
この辺りは銀閣寺と比べれば静かなものですが、まだ人がたくさん。でも、同じ法然院でも墓地には誰一人いない。『「いき」の構造』の著者、九鬼周造の墓参り(親戚とかではなくて単なるファンとして)。
墓石の右側には、西田幾多郎訳のゲーテの詩。ほぼ判読不能。メモをとろうとしても難しそうなので、そうだiPhoneに聞いてみよう!と検索してみると・・・
ゲーテの歌 寸心
見はるかす山々の頂
梢には風も動かす鳥も鳴かす
まてしはしやかて汝も休らはん
と書いてあるそう(サイト「墓碑めぐり」より)。「九鬼周造」の文字は、西田博士による揮毫と聞いていましたが、ゲーテの歌は今回の収穫。苔むした墓地をあとにさらに南下。ちょっとだけ永観堂。美しいのですが、人が・・・(その一員の自覚はありながら)。
永観堂から南禅寺も行っちゃう? と迷いましたが時間がなくなってきたので、西に進路をとり、てくてく歩いて川端通り二条へ。めざすは「加藤順漬物店」。
ずっと前から気に入っている漬物屋さん。外観が変わらないねえ、とお店の人に伝えたら「わからないように新しくしているんです」って。しば漬け、京野菜の日野菜、ちりめん山椒をお土産に。地方発送はしているものの出店はなく、ここでしか買えない味。いよいよ、京都を出発するまで2時間を切り、行けるのはあと一軒。ホテルに寄って荷物をピックアップしないといけなので、残されているのは正味1時間。混雑しているとはいえ徒歩より早いだろうと判断して、川端通りをタクシーで四条まで南下。交差点で車を降りて、早足に祇園「竹きし」へ。
随分久しぶりに訪れる割烹。店内は改装してあったけれど場所は同じ。ここで、料理に合わせるお酒の選び方にはっとさせられたり、食べる人を見ながら出してくれる料理のおいしさに出会ったのでした。この地で営業してもう20年近く経つそうで、今では釜飯のおいしい店として知られるように。うれしいことに、新幹線でほかほかの釜飯を食べたい! というリクエストにも応えてくれるのだとか。
ビールを飲みながら、茶碗蒸し、天ぷら、牡蠣の釜飯、デザートの柿を食べて。最後にお茶を飲んでごちそうさま。ここから歩いて5分ほどのホテルに戻り荷物をピックアップ。三条から地下鉄を乗り継ぎ京都駅へ。京都24時間はこれでお終い。こだまのグリーン車(笑)でゆっくり帰って、東京駅に着いたのは宵の口。丸ノ内線に乗り換えて向かった銀座、資生堂パーラーでは、義母の誕生会ということで、東京らしい洒落た洋食を、家族揃って賑やかにいただいたのでした。満腹。
(H)
Happiness is always delicious!
ギャラリーキッチンKIWI
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